| ●Nikon S2 Black \ 1,155,000 ニコンのレンジファインダー機と言えば、ほとんどのクラシックカメラ好きがSPを思い浮かべるに違いない。 シャッターもファインダーも、コンパクトなボディに考え得る全ての機能が凝縮されて詰まっている、文字通り「究極」と言えるレンジファインダー・カメラである。確かにオール・イン・ワンとも言える程の、一台ですべてまかなってしまえるだけの利便性において、このカメラに勝るものは無いかもしれない。 しかし例えば50ミリの標準を一本だけ使って写真を撮るときに、この「何でもござれ」の多機能ボディはかえって使いにくいこともある。いくつもの焦点距離をカバーするファインダーは煩雑だし、時に見えにくいこともある。 同じ頃、ライカはより進化した距離計連動式カメラをとしてM3を発表している。これを見てニコンをはじめとする日本のカメラメーカー各社は、M型ライカを超えるには同じ土俵では無理と判断して一眼レフに方向転換したのだったが、ライカはその後もMシリーズを進化させながら今日まで作り続けている。だが、その「本家」であるライカ自身がいくら改良に次ぐ改良を重ねながらモデルチェンジを繰り返しても、いまだに多くの写真家が初代のM3を最良のライカとして使い続けている。利便性とは別に、写真を撮る上で最も大事なファインダーの見え方やシャッターの感触などにおいて、これを超えるものがないからである。 ニコンSシリーズにおいても似たようなことが言えるのではないだろうか。SPはたしかにこの上なく良く出来ているが、気持ちよく写真を撮るとか、確実に映像を残すなど、カメラに本来的に求められる基本要素から少々離れてしまってはいないだろうか。「標準」とされる50ミリレンズを付けたとき、何も気にせずファインダーを覗きながらシャッターを切るにはS2がベストだと考えるニコンファンも多いのである。 コレクターはSPを珍重し、フォトグラファーはS2を重用する…一言で表現するなら、そう言えるのではないだろうか。 しかし、実はコレクターからもフォトグラファーからも羨望の目を向けられるS2が存在する。ブラック・ペイント仕上げ=黒塗りのS2である。 ![]() ニコンはライカのような詳細なプロダクション・リストを公表していないので正確に知る術はないのだが、1000台前後のS2ブラックが作られたと言われている。S2はシャッターダイヤルが白から黒に変更された時期をもって前期と後期に分類されるが、黒塗りのボディはいずれの時期にも見られる。今回の中古カメラ市に当社から出品するS2ブラックは、黒ダイヤルの後期型で、6180730のシリアル・ナンバーを有している。 ![]() 朝日ソノラマ刊の「レンジファインダーニコンのすべて」(久野幹雄氏:著)によれば、6180600番台から6180900番台にかけての400台は黒のS2となっており、この個体とちょうど符合する。 ![]() コレクターにとってもフォトグラファーにとっても、最大の関心事はボディとその機能のコンディションであろう。 どんなに珍しいと言っても、折角のブラック・ペイントが剥げだらけでボディが凸凹では魅力は半減してしまうし、ちゃんと写真が撮れるかどうかさえ怪しくなってくるというものだ。 黒ボディは比較的塗装が剥がれやすく、所々に真鍮の地金が顔を出しているものも数多く見受けられる。時としてはそれも魅力の一つだったりするが、このS2に関してはそこまで使い込まれておらず、美しい黒塗装がほとんどそのまま残っている。軍艦部や底板にもアタリや凹みは見られず、前板(ファインダーカバー〜エプロン部分)にわずかな波打ちが見られる程度である。S2ブラック自体が非常に稀少であり、かつこれほど状態の良いものとなるとお目にかかる機会は滅多にないだろう。 ![]() オリジナルの状態でケースに入れて使用されていたと思われるので、背面も非常にきれいな状態を保っている。 ![]() ケースには手作業で前カバーを補修した跡が見られる。おそらく、とても大切にして大事に使用されてきたカメラなのであろう。ケースの底カバーに設けられているポケットには、カメラを購入した際に説明書と一緒に添付されていたとおぼしき露出早見表が残されていた。これを参考にしながら、様々なシーンがフィルムに収められた事だろう。 次にこのカメラを手にするのは、熱心なコレクターか…或いは写真を撮るのが好きでたまらないカメラ好きか…? このままのコンディションを「文化遺産」として将来にわたって保存されるならそれもいいだろうし、真鍮の地金が出るまで使い込んで自分だけのS2にするのもまたそれはそれでいいと思う。 いずれにしても、ベストな状態でお渡しできるようにニコン純正のメンテナンスを可能な限り施してあるので、存分にその魅力を味わって頂きたい。(→写真6) |